名も無き君へ捧ぐ

「そんなこと出来るんだ....。そういえば、最初に姿を見た時も、人間の姿で存在してたよね。逆走車が来た時、横断歩道から引きずり出してくれたよね。確かに腕引っ張られた感覚あったもん。ユーレイなのに、おかしいなって思ってた。そういうことだったんだ」

「時と場合によって、力を使い分けているんです。最初から霊感が備わっている方もいるので、見える見えない問題は力など関係ないんですけどね」



手に触れた感覚は、不思議な暖かさ。
生きている人の温もりではないのに、どこから来る温度なのだろう。
柔らかくて、懐かしさを覚える。




「行きますか」

「うん」


私達はそれとなく再び手を重ねると、きゅっと握り、夜風を遮るように歩き出した。
寒さは感じなかった。




今日は違う。

隣に居るのに居ない訳じゃない。


いつも一緒に歩いていても、どこか寂しかった。
自分にしか見えていない彼のことが、たまらなく切なかった。



堂々と存在を感じながら一緒に居れる。



今は仮の姿だったとしても。





彼の向かう足の先は、土手の方向だった。


桜並木がある、あの場所。



まだ桜はほんの一部咲きに過ぎない。

そんなにしてまで見たかったのだろうか。




疑問に思うも立ち止まることなく進んでいく。



冬弥の考えていることが分からない。


手の温もりは、途切れることなく暖かい。