名も無き君へ捧ぐ


冬弥が話してくれるなら....。

今は言葉を飲みこんだ。


「なんですか?また変な質問ですか?」

「この世界に生きてる人達、みんな、守護霊って居るんだよね」

「はい。みんな居ます。人に限らずに、鳥や犬、魚にも。命あるもの全てに居ます」



ベランダから見下ろすと広がる、街並み。


行き交う車や歩行者。

遠くではサイレンが聞こえる。


見上げた空には鳥が羽ばたき、高く飛んでいく。


風のせいか、雲の流れは速い。




「不思議だね....。生きてるって、何だろう」

「おや、杏さんにしては哲学的な質問ですね」

「何となくね、ふと思って」

「うーん。そうですね、ユーレイの僕からすると、ここに居ること全てだと思いますよ」


冬弥は私の後ろに周りこむと、私の両肩にポンと手を置く。


「ここで杏さんが息をして、目で見て、風を感じて、耳で聴く。そして、心で感じとること」

「それだけのこと?」

「はい。実体の無いユーレイには、出来ないことなんです。僕が人間らしく振舞っていることなんて、所詮真似事なんです。ごっこ、なんです」



肩に手を置いた冬弥の手の力が微かに弱まる。



冬弥の手に触れようと手を伸ばす。