名も無き君へ捧ぐ


シーツをバサッと物干しに引っ掛ける。

風に煽られ、翻るシーツで隣の冬弥が隠れる。



「杏さん」


声だけ聞こえてくる。


「なーに?」

「まだ少し風冷たいですね」

「そうだね」

「桜、見たかったんですよね」

「うん....。どこかで開花宣言はしたみたいだけどね。ここはまだちょっとかかりそうだよね。仕方ないね」




風がやみ、横顔の冬弥が見えた。


心なしか寂しそうに遠くを見つめる。




一緒に生活するようになって気づいたこと。
冬弥はどこか遠くの方を見つめる瞬間がある。


癖とかではないのだろう。




なんだろう、胸騒ぎがする。




彼が見つめる先にあるものは、この世界にあるもの、なのだろうか。


何となく、違うような気がしていた。





「あのさ、冬弥」


(先祖会議に守護霊が出席するなんて只事じゃない)


相模さんの守護霊の女の子が言っていた言葉が引っかかる。
でも、何か訳があるのは違いない。
それを私が聞いていいものなかのも分からない。