名も無き君へ捧ぐ


「おはよーございます。ただいまでーす」



呑気な口調とヘラヘラした表情。

こっちの気など知らずに....。


「....おかえり。いつ戻ってたの?ひいお爺さんも何も言ってくれなかったし」

「昨日の夜です。杏さんが丁度レモンサワー2缶飲み終わったとこ」

「うえ、見られてたんだ....。というか、何でその時に何も言ってくれないの....」

「声掛けたんですけどねー。『ユーレイなんかいるもんか!あっちいけー』とかなんとか言って、寝ちゃってましたから」

「へ、へぇー」


まるで記憶に無い。
顔が引き攣る。


「はー、でもやっぱり娑婆はいいですねー」


背伸びをしながらどこか上機嫌。


「何言ってんの、黄泉(よみ)の国だっけ?ここの世界よりずっと平穏なんじゃないの?」

「チッチッチッ。甘いなー」


人差し指で制止する。


「黄泉の国に極楽浄土は確かにありますよ。でもここにしか無いものも、当然ありますから。幸せだってそうです」

「ふーん。そういうもん?」

「そういうもんです。さー、今日は晴れたんですから、洗濯物干しますよ!僕も手伝いますから。娑婆の空気いっぱい吸うぞー」

「ふふっ、さっそく元気だなぁ」



彼が私の守護霊として離れる前と変わらない姿に安堵する。
むしろ、はしゃいでいるくらいだ。