名も無き君へ捧ぐ


「きゃああー!」

側にあったクッションを頭から覆い縮こまる。


「いい加減愛想つかすとこだったんですけどね」

パッと電気がつく。

もちろん私が付けた訳じゃない。
勝手な事が次から次へと起こる。
今目を開けたら絶対やばいと思い、頑なに目を瞑ったままだ。

「おーい、そろそろお話しません?…死ぬ勇気はあるのにお化けは怖いなんて、笑わせてくれますよね」


は?

カチンと来てクッションを放り投げた。


「なに分かったこと言っちゃって!さっきからうるさいんですけど....て、あっ」


声の主の正体に思わず口に手を当てた。

あの、通せんぼ男が腕組みしながら壁にもたれかかっていた。
スーツ姿も同じだ。


「はぁ」

こちらを見ずに深いため息を吐く。

「あの....、なぜあなたがうちに?」

とりあえず至極当然の事を聞いてみる。


「本当はこんなはずじゃなかったんです。ま、緊急事態ってことで。今から話すこと、ちゃんと信じてくださいね」

「よく分かりませんが、話は聞いてみます」

自然と正座して体勢を整える。
このおかしな状況だ。
今は何となく乗っかっておくことが得策に思えた。