名も無き君へ捧ぐ


しばらく言葉が途絶えた後、呟きのような怒りに似た声が漏れた。



(....好きになっちゃいけない人を好きな人になるなんてバカよ。....ごめんなさい。あなた達が少しだけ、羨ましかったの。本当の恋人のように見えて)

(もしかして、あなたは相模さんのこと....)

(いいのよ。私は。ちょっと話し過ぎたかしら。勝手にベラベラと悪いわね。でもこれだけははっきり言わせて。....死を考えればずっと傍に居られるなんて考えは辞めなさいよ。それだけは間違ってる)


悲しみの色を滲ませた表情の中に宿る、この世のものには無いであろう、空気を震わせ訴える波動と熱さ。皮膚がやけどするのとは違う、チリチリと皮膚を突き刺すものだ。



ゾクッとした。
妙な寒気がする。


冬弥と話していても、そんなことは感じたことはなかったのに。



相模さんがこちらに歩いてくるのが見えた。




すうっと女の子は姿が透明になり、やがて見えなくなった。





(このままだとあなたも彼も、絶対幸せにはなれない。とっくに気づいているでしょう?)


最後に耳元でそんな言葉を残し、それっきりもう姿は現さなかった。