名も無き君へ捧ぐ

きっと、天界からはこの世のことなど全てお見通しなのだ。

私があの日、死を選ぼうとしたことなど、とっくに周知の上での今の言葉だったとしたら....。



感情が忙しなく動き回る。


私のどこが、どうして?

困惑する。


自分のことも大事にできないのに。


褒められて照れくささもあるが、一番目立ってのしかかるのは痛み。


冬弥を想う気持ちは、あまりに重い痛みとして胸に響く。




私はもう何も言える言葉が見つからず、きゅっと堅く口を結んだのだった。






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あたり真っ白な大広間に、冬弥は一人正座をしていた。



もう何時間も。




柱の影から彼の様子を見ていた年老いた女性がそっと声をかける。


「その辺にしておいたら。もうみんな帰ったからね」


「ですが....」


膝の上で握りこぶしを作っていたその手は、微かに震えていた。


「早く、あの子の元に帰ってやんな。残りの時間も少ないんだからね。出来る限りのことしたらいいわ。後悔のないようにね」


年老いた女性は近寄ると、冬弥の肩をさすった。


「....はい」





一人になった冬弥は、すっと立ち上がると広間の外に出る。


沈みかけた太陽をじっと眺めた。




陽の光で作られた1本の道は、ずっと遥か遠くまで続いている。

冬弥は道の始まりに立つと合掌し、一つ深呼吸をした。

そして、ゆっくりと陽の道を歩き始める。


1歩1歩、時を刻む時計のように。