名も無き君へ捧ぐ

「どうしたの?」

「ここから見える景色も、なかなかいいなぁと思いまして」

「ふふ、何。急にあらたまって。いつも私の傍で見てたんじゃないの?守護霊なんだから」

「そうだとしてもですよ?そうじゃないんすよ」

「え、どゆこと?」

「....まぁ、そのうち、分かればいいんじゃないですか。そのうち」

「それって、いつかのあれみたいな?死を考えると....みたいな」

「それとは違います」


食い気味で返す。


「即答かよ。ああ、そうですかー」




彼の視線の先を辿る。

あの土手の夕焼けを見つめていた時と少し重なる。


だけど、今の方がずっと朗らかな表情だ。



春風に彼の艶やかなサラサラの髪が無邪気に揺れる。

幼さを僅かに残す、目元。



そんな姿はこの世の人ではないのに、確かにここに生きている気がする。
だけど、やっぱりこの世の人ではないからか、どこか現実味がない儚さを宿す。


ユーレイと生活を共にするようになってから、感覚が大分バグっているのは確かだ。