名も無き君へ捧ぐ

「まだ頭痛いですか?」

「う~ん。もう少し寝てようかなぁ....」



渡すつもりでいたはずなのに、まさかこんな形で呆気なくバレンタインが終わるなんて。

全く想像していなかった。


「........」

「杏さん?もしかして、勝手に食べたこと怒ってます?」

「ふふ」

「え?何?コワイ」

「ふふふっ........、あははは」


あんなに意地張ってたことが滑稽に思えて、何だか笑えてきてしまった。


「怒ってないよ。冬弥に渡しそびれちゃってたからさ。あー、喜んでくれてよかった!」



もう片っぽの想像の言葉は彼からは無くて、それがとても嬉しくて、目尻に涙が滲んだ。




「急に笑い出すもんだから、ビビっちゃいましたよ。念の為に手当させてください」


冬弥は私の座り込んだ床に、同じように向かい合わせに座り、私の額に自分の額を当てる。


ふわりと触れる。
ひんやりと、優しく伝わる。



「チョコ、ありがとうございました」

「どういたしまして」




私はまた同じように願った。






『どうか、どうか、この時間が幻ではありませんように........』