名も無き君へ捧ぐ

「はい。ぜひ、交換しましょう」


一瞬でも前のめり過ぎたかと焦ったが、相模さんの返事に胸を撫で下ろした。


慌てて携帯を取り出すも、フリーズしていたことを思い出す。


「やっば!使えなかった」


素の心の声がダダ漏れだ。


「突然は困りますよね。どうぞ、これをお渡ししますね」


胸ポケットから取り出し、受け取ったのは名刺。


「本当にすみません」


わりと有名な印刷メーカーの営業課に属しているらしい。

というのが瞬時に分かった。


「メールでも、電話でも、いつでもご連絡ください」

「分かりました。またあらためて、ご連絡します」



買い物があることを告げると、書店の前で相模さんとは別れた。





「はぁ~あ」

ハプニングからのラブコメ的展開に、ほとほと精神が参っていた。
家と会社の往復、レンジでチンのご飯、休みといえばゴロゴロしながら漫画を読む。
そんな代わり映えのない日常を送っていただけに、脳みそと感情がすっかりキャパオーバーだ。


これって、パンケーキの時とシチュエーションが似てる。

フラグか?

もはやこれこそ人生終了のフラグか?


まだ何も始まっていないのだけど。


ふにゃふにゃと力が抜け、その近くにあったベンチに座り込む。


(....まだ?まだって、何それ。まるでこれから何かあるみたいじゃん。まっさかまさか!ユーレイとデートするとかじゃあるまいしー!やだなー自分、あははは)