名も無き君へ捧ぐ


虚しく本を重ねる。


すると、ふいに横にすらりと細身で背の高い男性が立つ。

店員さんかもしれない。

「すみませっ....」

購入を辞めることを謝ろうとしたところで、この前の探し物を手伝った相模さんであることにハッとした。


「どうぞ、本を置いてください」

「いや、でも、私その....」

「遠慮しないでください。困った時はお互い様です」


朗らかな笑みは後光が差すかのように眩しく、まさしく神か天使か仏のように思えた。


「ありがとうございます」




相模さんはササッと携帯をリーダーにかざし、決済を済ませると本を丁寧に渡した。




「このお礼はまた後日、ちゃんとさせていただきます!!本当にありがとうございます!」

「いいんです、いいんです。実はこの前のパンケーキも本当なら自分がご馳走したかったのですから。お礼として受け取ってください」

「でも....」



そうか、あの時相模さんもこんな気持ちだったのかもしれない。


「大丈夫ですから」

「あ、あの、せっかくなので、ご連絡先教えてください。何かまた別の機会にお礼が出来れば。嫌じゃなければ」


キョトンとした表情から察するに、私からそんな言葉が出るとは思いもしなかったのだろう。


少しの間の後に微笑む。