名も無き君へ捧ぐ


頭が真っ白になり、ぺたんと座り込んだ。




その場にいた人達や近所の人達が集まり、ザワザワ騒ぎ始めた。
持っていたケーキの箱が入った袋も、その場に放り出される程、緊迫した状況だったらしい。

落ちた袋を丁寧に払い、しゃがみ込みながら私に袋を渡してきたのは、あの通せんぼ男だった。


「すみません。突然引っ張ってしまって。大丈夫でしたか」


私はコクリコクリと、頷くのが精一杯だった。


あまりの衝撃に平静を保つのがやっとだ。
よろつきながら立ち、ケーキの袋を受け取る。


「気をつけてくださいね」


お礼を言う間もなく、そう言って彼は去っていった。

この時は深く考えもしなかった。
なぜ彼がそんな言葉を残していったのか。

この日に起きたすべての出来事が、今後を左右することになるなんて。