名も無き君へ捧ぐ


じっくり検討した中で見つけた単行本3冊を手にレジに行く途中、お菓子作りのコーナーに目が留まる。

わざわざレシピ本なんて....。
ネットで済む世界だというのに。

それでも手に取っていたのは、表紙がまん丸大きなパンケーキだったのはかなり大きかった。



黙っているが、今もすぐ側にいるあいつのことだ。


吸い寄せられるように向かってしまったのは、お菓子好き守護霊の力も少なからずあるのではないか。


つい、心の中で文句を言おうとしたがすっと飲み込んだ。

こんなことで腹を立てても仕方ない。
それより、喜ばせたい気持ちのほうが何倍もあったのだから。


単行本とレシピ本を手にセルフレジへ向かう。



いつものようにQRコード決済をしようと携帯をポケットから取り出す。

電源を入れようとボタンに触れるも、画面は真っ暗なままだ。
電池切れにしては早い。
確かさっきは60%まであったはず。

何度か試みるも変わらない状況。


(磁波なんちゃらで、どうにかならない?ねぇ冬弥?)


心の中で呼びかけるが反応がない。

どうしてこんな時に。


現金も今日に限って持っていない。

後ろに並んでいる他の客の視線もズキズキ刺さる。


買うの諦めるか....。
久しぶりに来たアナログの実店舗に来て、デジタルに縋る自分が妙に滑稽で恥ずかしく思った。