名も無き君へ捧ぐ

冬弥の稀に見る素直な態度に舞い上がってしまい、さっき出くわした不思議な女の子の存在を忘れてしまっていた。




思い出したのは、寝る前の冬弥の一言だった。





「そういえば、言い忘れてましたが、杏さんにあっかんべーした女の子、相模さんの守護霊でしたよ」

「ふーん、そうなんだぁ。あっかんべーって、....あの子??」


思わずガバッと布団から履い出た。


「だからすぐに消えたのか」

「まー、子供といえどちゃんと守護霊ですから。だいぶ健気というか強気というか」

「相模さんは、見えてないのかな」

「恐らく」

「そうだよね、普通は見えないんだもんね」

「守護霊が悪さするなんてことまずないですが、敵意剥き出しみたいだったんで、あまり怒らせないでやってくださいね」

「う、うん。でもなんで?もう会うことないんじゃない?連絡先知らないし」

「そうでしたね。縁があれば?の話です。これ以上はもう話せません。さっさと明日のために寝てください。おやすみなさい」

「そこまで言っといて?気になるじゃん!もう少し話してよ」

「........」

「いないのー?」

「........」

「おーい、もしもーし」

「........」

「ユーレイさーん」


「....はぁ」



暗がりの中、盛大なため息だけが聞こえた。


「しつこそうなんで、先に伝えておきます。水曜日の仕事帰り、駅前の本屋に寄ってください。もちろん理由は聞かないでくださいね。では、おやすみなさい」


姿は現さずに声だけだ。