名も無き君へ捧ぐ


「ゴホンッ」



わざとらしい咳払いがしたと思ったら、ひょいっと冬弥が現れた。


「なーんか、いい感じだったんじゃないですか?杏さんにしては」

「べ、、別にー、そんなんじゃないです」

「連絡先くらい聞けばよかったのに」

「だから、別にそこまで親しくなろうなんて思ってなかったの。あ、冬弥拗ねてるんでしょ?」

「........当たり前じゃないですか」


ぼそっと呟くなり、あさっての方向を向く。


「あら、素直」


てっきり、突っかかってくるかと身構えていたので、拍子抜け。


「ふふふふ、かわいいとこあるんだね」


「誰かさんのせいで厳しくしてるんです。普段の僕はかわいいんです」

「はいはい、分かりました。で、何食べる?パンケーキ買っていく?」

「....プリンアラモード」

「よし!コンビニ寄ってこ」

「杏さん優しいとこありますよね」

「はあ?私普段から優しいでしょー?」

「面倒くさがりですけどね」

「ちょっと!一言多いの!」

「ふふ」



おかしい。

いや、本当にどうかしている。

ユーレイとの時間をすっかり楽しんでしまっている。

まともじゃないことくらい分かっている。


しかも、ドキドキして胸が痛くて苦しくてくすぐったい。




どうか、どうか、この時間が幻ではありませんように....。