名も無き君へ捧ぐ

「この近くのパンケーキ。有名なんですよね」

「ははは、まあそうみたいですよね」

「........」

「........」


「あの....、良ければですが、ご一緒にどうですか?もちろんご予定がなければ」


冬弥のことが気にかかったが、とりあえず悪い人では無さそうだ。


「では、パンケーキ食べにいきましょうか」




本当は1人きりでリア充で溢れかえるお店に入るのは心細かったのだ。
いくら冬弥が居てくれるとはいえ、その姿は自分にしか見えないのだから。


傍から見たら完全におひとり様だ。




歩いて5分もしない場所にある、パンケーキ専門店【my heart kitchen(マイハートキッチン)

ネットで話題になり、雑誌やテレビにも取り上げられているだけあって満席だ。
賑わう店内。
カップルの客もちらほらいる。


当たり障りない会話が続く。


「1度来てみたかったんですよ。でも、男1人では入り辛いですから」


彼のゆったりした口調で、落ち着き感に気が緩む。


「あ~、まあ確かに。私もだったんですよ。実は私も1人で行こうとしていて、でもおひとり様にちょっと抵抗あったので」

「そうだったんですか。いや、共感できて嬉しいです」

「ですね。それに、来れてよかったです」



運ばれてきたふわふわのパンケーキ。

あんなに嬉しそうに目を輝かせていた冬弥だ。
今頃どんな顔をしているだろうか....。

胸がチクッとした。