名も無き君へ捧ぐ



私は答えるように頷くと自販機に駆け寄り、補聴器を拾い上げる。


「あ、ありましたーー!!これですよね」

「....はいっ!これです。ありがとうございます!!」


地面につきそうなくらいに深く深く頭を下げる。


「壊れたりしてませんか?」

「はい。大丈夫そうです」

「良かったです。では、これで失礼します」

「あの、」


立ち去ろうとしたところで、呼び止められる。
頭の中はもうパンケーキでいっぱいになっているのだ。
それに、私の手柄では無いことが後ろめたい。



「なんでしょうか」


「何かお礼をさせてください。僕にとって無くてはならない本当に大事なものなので」

「気持ちだけで十分ですよ」

「しかし....」



自分は何もしていないと、今すぐにでも言ってしまいたい。


色白で細身で華奢な体型なこともあってか、その男性が困ったように考える姿は、何だか放っておけない。

そうこうしているうちに、また誰かとぶつかりそうになっている。



「パンケー…」


余程パンケーキのことで頭がいっぱいになっていたせいか、思わず口にしていた。


「パンケーキ?」


しまったと私は顔を背ける。