名も無き君へ捧ぐ


「有難く、いただきましょう」

「ユーレイって、お腹減るの?」

「減ることはありませんね。生身の人間じゃないので」

「ですよねー。ほんっとに、不思議なんだけど、数えたら切りがないよ君」



褒めたつもりでもないのに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべどこか自慢げだ。




「今日はどこ行きますー?」


人の携帯を器用に操作し、人気スポットを検索している。

最初から人間だったのではないかと思うくらいだ。

ずっと一緒にいたのだから、人間らしい生活などお手の物なのかもしれないが。



「とりあえず、電車乗ろうか」



最近の休日は家でゴロゴロしているより、冬弥と出かけることが多くなった。
出不精だったが、1人だけど1人じゃないことで、出かけることも楽しく感じるようになっていた。


冬弥は基本的に家の中以外では姿を現さない。
だけど今日は家の外でも堂々と姿を見せている。
こちらから頼んだ訳じゃないが、何だか彼は朝から機嫌がいいので深く聞かずに良しとしている。


冬弥の存在に気づく人はまず居ない。


電車の中で私の隣に座っているが、他の乗客はお構いなく座る。
一応冬弥は席を譲る。
その辺、まさに人間らしい。


見えないだけで、普段あちこちにユーレイがいるなんて話、本当だったのだ。
想像するだけで怖かったのに、冬弥のお陰で今はちっとも怖くなくなっていた。