名も無き君へ捧ぐ


すーっと静かに痛みが引いていく。


「お疲れ様です。杏さん。もう大丈夫です」


耳元で囁く。


誰にも聞こえない、私にだけに聞こえる声。



「うん。ありがとう」


独り言のふりして返す。



痛みがなくなり顔を上げると、冬弥の姿はまるで見えなかったが、確かに側にはいるようだ。

うっかり、あの日のことなど思い出して自分で怖くなるなんて。

口には出さないが、きっと冬弥はいつも心配してくれているのだろう。
任務だと言い張ってはいるが、それだけじゃない何かもあるような気がしていた。


今はもう、彼に余計な心配をかけたくない気持ちが強くなっていた。