名も無き君へ捧ぐ


最初から空っぽはあったのだ。
それに気が付かなかっただけ。
見て見ぬふりしていただけ。


小さな落とし穴がどんどん大きな穴になっていき、1歩踏み出したらもうおしまい。



きっとまだその落とし穴はすぐ側にある気がする。



あのユーレイ君が隠しているだけかもしれないが。



怖い。


落とし穴の存在ではなくて、今ある不思議だけど心地よい時間がなくなることが。


それによって、また自ら落とし穴を作り出してしまうのではないか。


考えると怖くてたまらくなっていた。





いつまで冬弥の姿を見られるのだろう。


いつまで側にいてくれるのだろう。


いつまで一緒にご飯を食べてくれるのだろう。






キーン。



耳鳴りと同時に頭痛がした。




たまらず、駅構内のベンチにとっさに座り込む。


額に手を当て目を瞑る。


すると、ふわっと何かが手に触れる。
少し冷たくて柔らかい、風のようなもの。


目を開けると、冬弥がいた。



ツンケンした生意気な表情ではなく、何も言わず口元に笑みを浮かべ、いつものように私の額に自分の額を合わせる。