名も無き君へ捧ぐ


土手道を一人歩く。

穏やかな川のせせらぎを聴きながら、黙々と歩く。


一人で歩くのはもう慣れていたはずなのに、途端に心もとない。 
例え隣にユーレイがいたとしても。


夕日がもう時期、沈もうとしていた。

チラッと隣にいるはずの冬弥を覗く。

彼も夕日を眺めていた。

不思議なことに、彼の瞳にも茜色が映りこんでいた。


どこか懐かしそうに、でも寂しそうに。


そのことがほんの少し嬉しくもあり、本当の人間ではないことを思い知る。
痛みとは違う苦しさが胸の奥まで響く。


声を掛けたくても声を掛けられず、冷たい風を背に、ただ同じ夕日を眺めながら歩いていた。







「ねぇ、冬弥、運命ってなんだろう。運命の人って本当にいるの?」


この日の夜、寝る前にふいに問いかけてみた。


「それ、僕に聞きます?」


どこからともなく、よく通る声が返ってくる。


「だって、守護霊だったらそういの、引き合わせたり出来るもんじゃないの?」

「何でもかんでも守護霊任せにしないでください。あくまでもお守りする立場なので。危険を回避することは可能ですが」

「じゃあ、あの人と別れたのは、危険回避だったってこと?」

「結果的にはそうなるんじゃないですかね。どんな未来があったかは、お話できませんが」

「...ま、、まじ?」

「ユーレイ嘘つきません。人間だけですよ嘘つくのは」


妙に説得力がある。
元彼のことで引きずっていた訳ではないが、別れない未来というのもあったのではないか、そう思うことすら罪悪感だった。

冬弥の言葉でやっと霧が晴れていくようだった。



「1つ聞いていい?」

「はい」

「....私、このまま独身?」

「ぶはっ、あらたまって何を言い出すかと思ったら」


姿は見えないが、どうやら吹き出したらしい。