名も無き君へ捧ぐ


会社の屋上でお昼を取っていると、守護霊君がふわりと現れる。


「また1人なんですね」

「なに、またって。いいんですー。1人が好きなんで」


ぷいっと顔を背ける。


「強がり~。ま、杏さんには、あの人は合わなかったってだけでしょうから」

「げっ、見てたんだ。悪趣味」

「守護霊なんで、コソコソしてもムダです。僕の忠告無視したでしょ。自業自得です」

グサグサッと容赦なく突き刺さる。

「分かってます。すみませんでした。前から思ってたんだけどさ、君って名前無いの?」

「基本的にはないです。だって本来名前は、生きとし生けるものに対して付けられるものですから」

「なるほどね。じゃあさ、私が付けてもいい?名前あった方が呼びやすいし」

うーんと眉をひそめる。

「いいですよ。その代わり…、絶対僕のこと好きにならないでくださいね」


そう言うなり、コンビニ弁当の卵焼きを摘み口に頬張る。


「はあ?何でユーレイに恋しなきゃなんないの?有り得ない有り得ない!自意識過剰だって!笑わせないでよ~。て、どさくさに紛れて食べるな!!」


大袈裟に拒否したものの、内心どきりとしてもいた。
絶対なんて保証どこにもない。
それに、最近何だか心がざわつき始めている。