名も無き君へ捧ぐ


そう一通り説明を終えると、買ってきた惣菜のヒレカツを味見する。


「気をつけてくださいね」


と事故から救ってくれた際、去り際に放っていた言葉に合点が行く。

あの時の雰囲気と今では随分違うが、同一人物に間違いない。



いつ、どこで、私の覚悟に気付いていたのだろうか。


胸が苦しくなった。


自分の身勝手な思いで、散々振り回していた存在があったなんて。

「ごめん、なさい」

「いや、僕は謝ってほしかったわけじゃないですから。何より、感謝の気持ちの方が僕としては嬉しいです」


泣きそうになる私の頬をツンと指でつつく。

ずるい。
悔しい。
腹立つ。
なのに、心の底から嫌いにはなれない。
それよりずっと胸の奥にじんわり広がる温かさを実感する。


「一緒にたべよう」


2人分の皿と箸を用意する。



「はーい」

「ユーレイって、お腹減らないんじゃないの?」

「はい。基本的には」

「ふふふ、絶対言うと思った」



こうして守護霊君との、おかしで不思議な同居生活が始まったのだった。