「お疲れ、栞里ちゃん」


進藤くんに街中で連れ去られそうになった、次の日の夜。


学校が終わったあと塾に直行し、自習室で勉強していると、透くんに声をかけられた。


「透くん、お疲れ様」

「こんな時間まで頑張ってたんだ?」


自習室の壁時計に目をやると、20時を過ぎていた。


「うん。もうすぐ、学校の中間テストがあるから」


5月も半ばになり、中間テストまであと2週間を切った。


私が福羽学園に転校してきて初めての定期テストだから、良い点をとりたいなと思って。


最近は、テスト勉強に力を入れている。


「そっか。頑張るのも良いけど、あまり無理しすぎないでね?」


私の筆箱の横に、コトンと紅茶が置かれた。


「透くん、これ……」

「栞里ちゃんに差し入れだよ」


メガネのレンズの向こうの透くんの目が細められる。


もしかして、外の自販機で買ってきてくれたのかな?


「栞里ちゃん、確か甘いもの好きだったよね?」

「うん、好きだよ。ありがとう!」

「どういたしまして」


私は、透くんからもらった缶の紅茶をギュッと握った。


透くんとは私が小学校の途中で引っ越して以来、会えていなかったのに。


私が甘いものを好きだってこと、ずっと覚えててくれたんだ。嬉しいな……。