「はあああぁぁぁぁーーー!!??」
俺の渾身の叫び声が、洞窟内に反響する。
「なんでやねん!!」
東間の鋭いツッコミも、洞窟内でこだまする。
「いやいやいや!! これどうすんだよ!!?」
「校長の好物だな……」
士稀が呆れたように首を振ってため息をついた。その隙にーー
「……っ、クモが!」
伊都が声を上げた。蜘蛛の身体がみるみる再生していく。
黒くて重々しい邪気が、蜘蛛の身体を覆い、膨れ上がる。
「復活すんの早いって!」
俺は焦りながら、再び手のひらに霊力を集める。
士稀が舌打ちをして、踏み込んだ。そのときーー
「……ぼくがやる!」
伊都が声を上げ、手を掲げた。シュッと細長い金色の杖(上部に天球儀のようなものが付いている)が出現する。
「時間を稼いで!」
「伊都!?」
既に伊都は、杖で地面に魔法陣を描き始めている。
「……任せた」
士稀がうなずく。
「守るぞ!」
東間が構える。
「おう!」
俺も前に出た。
蜘蛛が勢いよく飛び跳ねる。
「来るで!」
さっきと同じ要領で、東間が結界を張る。士稀が斬る。俺が削る。
だが、さっきよりも蜘蛛の再生速度が速くなっている。外殻も硬い。
「くそ……!」
(強くなってる!?)
伊都は必死に魔法陣を描いているが、まだ時間がかかる。
「ちょっとやばいかもしれんな……」
東間が珍しく焦りながら、札を地面に叩きつけた。蜘蛛を拘束するーーが、蜘蛛が足を振り下ろすと、東間の張った結界が破られてしまった。
蜘蛛は東間に向かって糸を吐く。粘着性のある糸が東間を拘束し、地面に叩きつけられる。
「ぐわぁっ!」
「東間っ!」
士稀が刀を振り下ろして糸を切り、東間が解放された。叩きつけられた衝撃で頭を打ったらしい、足元がふらついている。
再び蜘蛛が糸を吐いた。それはまっすぐ伊都に向かって伸びていく。
「くっ!」
士稀が素早く移動し、刀を構える。糸は刀に巻き付いて、蜘蛛はそれを勢いよく自分の方へ引き寄せた。士稀は柄から手を離してしまい、刀が奪われてしまった。
(このままだと……全員やられる)
手のひらを見る。小さな光の粒子が舞っている。
(まだ、やれるか……)
校長の言葉が頭をよぎる。――救いではなく、ただの破壊行為
「……でもさ」
小さく呟く。
「使い方次第、だろ」
ぐっと拳を握る。頭から雑音を消して集中。身体を巡る霊力の流れを早くする。どくどくと鼓動が早くなり、光が手のひらに集まる。
「士稀!」
「なんだ」
「一瞬でいい、止められるか」
士稀が一瞬だけ目を細める。
「……できる」
「じゃあ、その一瞬で、削る」
「……あぁ」
次の瞬間――士稀が踏み込む。手を掲げ、空中に素早く五芒星と円を描いた。
「縛陣ーー縛れ!」
鋭い光がクモを拘束する。
「今だ!」
おもいっきり振りかぶる。
「うおおぉぉぉぉーーー!!!零閃ーーーーー!!!」
轟音とともに、圧縮された光が蜘蛛をめがけて放たれる。今までよりも、ずっと荒く、強い。反動で倒れそうになるのを、足を踏ん張って耐える。
光は蜘蛛に当たり、炸裂した。
「ギィィィヤァァァァ!!」
蜘蛛が倒れる。のしかかっていた黒く重い邪気が、削がれて消えかかっている。完全には倒せていない。
「これで……いいだろ」
息を荒げながら、俺は満足げに口角を上げる。
「伊都、やれ!」
魔法陣が完成した。陣を縁取るように光が広がる。
「みんな下がって!」
俺たちは一斉に飛び退いた。伊都が杖を突き立てて叫ぶ。
「魔法陣、展開!!出てきて――彦兵衛さん!」
魔法陣全体が光に満ちて、中からゆっくりとひとつの影が現れた。
「おいで」
伊都が手を差し出すと、その影がそっと伊都に触れる。伊都はびくんっと身体を揺らし、影がするすると伊都に入っていった。
『お初……すまなかった』
伊都ではない男の声が、伊都を通して発せられる。ぼんやりと、髷を結った男の姿が浮かび上がる。
男の言葉に、蜘蛛がぴたりと反応した。次の瞬間、その姿が揺らぎ――着物を着た若い娘の姿へと変わる。
『彦兵衛さん……』
高く美しい声が震えている。
『会いたかった』
ゆっくりと、二つの魂が近づいて寄り添う。光がやさしく広がり、洞窟の空気が変わる。
じんわりと、二つの光が消えていった。あたたかい甘い香りが漂う。魂が還るときの、残り香。
(……未練がなくなって、還っていったのか)
いつかの、伊都が供養したうさぎを思い出した。
(伊都は、祓わずに還せたんだな……)
洞窟内に静寂が訪れる。
「……終わったんか」
東間が、消えた光の方をみつめてぽつりと呟く。
「……あぁ」
士稀がうなずいて、ゆっくりと周りを見回す。
「……よかったぁ」
伊都は、身体から力が抜けたのか、その場にへたり込んで、ほっとしたように笑う。
俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。胸の奥が、じんわりと熱い。
(……これが、救うってことか)
士稀が静かに言う。
「祓うことだけが、救いではない」
俺は顔を上げる。
「……あぁ」
士稀は少しだけ目を細めた。
「お前の力も――無意味ではない」
その言葉が、ゆっくりと深く胸に落ちる。
「……そっか」
胸に手を当てると、思わず頬がゆるんだ。
「試験……どうなるんだろう?」
伊都はへたりこんだままで、近くに転がっている竹筒を拾った。
「封印はできていない」
士稀が淡々と答える。
「まぁ、ええやろ。ちゃんと還したんやから」
東間がけらっと笑う。
「だな」
俺もつられて笑った。
「上出来だろ」
まだ熱が残る手のひらを、ぐっと力強く握りこんだ。
(俺は――破壊するだけじゃない)
洞窟の外から、光が差し込む。俺たちは、その光に向かってゆっくりと歩き出した。
俺の渾身の叫び声が、洞窟内に反響する。
「なんでやねん!!」
東間の鋭いツッコミも、洞窟内でこだまする。
「いやいやいや!! これどうすんだよ!!?」
「校長の好物だな……」
士稀が呆れたように首を振ってため息をついた。その隙にーー
「……っ、クモが!」
伊都が声を上げた。蜘蛛の身体がみるみる再生していく。
黒くて重々しい邪気が、蜘蛛の身体を覆い、膨れ上がる。
「復活すんの早いって!」
俺は焦りながら、再び手のひらに霊力を集める。
士稀が舌打ちをして、踏み込んだ。そのときーー
「……ぼくがやる!」
伊都が声を上げ、手を掲げた。シュッと細長い金色の杖(上部に天球儀のようなものが付いている)が出現する。
「時間を稼いで!」
「伊都!?」
既に伊都は、杖で地面に魔法陣を描き始めている。
「……任せた」
士稀がうなずく。
「守るぞ!」
東間が構える。
「おう!」
俺も前に出た。
蜘蛛が勢いよく飛び跳ねる。
「来るで!」
さっきと同じ要領で、東間が結界を張る。士稀が斬る。俺が削る。
だが、さっきよりも蜘蛛の再生速度が速くなっている。外殻も硬い。
「くそ……!」
(強くなってる!?)
伊都は必死に魔法陣を描いているが、まだ時間がかかる。
「ちょっとやばいかもしれんな……」
東間が珍しく焦りながら、札を地面に叩きつけた。蜘蛛を拘束するーーが、蜘蛛が足を振り下ろすと、東間の張った結界が破られてしまった。
蜘蛛は東間に向かって糸を吐く。粘着性のある糸が東間を拘束し、地面に叩きつけられる。
「ぐわぁっ!」
「東間っ!」
士稀が刀を振り下ろして糸を切り、東間が解放された。叩きつけられた衝撃で頭を打ったらしい、足元がふらついている。
再び蜘蛛が糸を吐いた。それはまっすぐ伊都に向かって伸びていく。
「くっ!」
士稀が素早く移動し、刀を構える。糸は刀に巻き付いて、蜘蛛はそれを勢いよく自分の方へ引き寄せた。士稀は柄から手を離してしまい、刀が奪われてしまった。
(このままだと……全員やられる)
手のひらを見る。小さな光の粒子が舞っている。
(まだ、やれるか……)
校長の言葉が頭をよぎる。――救いではなく、ただの破壊行為
「……でもさ」
小さく呟く。
「使い方次第、だろ」
ぐっと拳を握る。頭から雑音を消して集中。身体を巡る霊力の流れを早くする。どくどくと鼓動が早くなり、光が手のひらに集まる。
「士稀!」
「なんだ」
「一瞬でいい、止められるか」
士稀が一瞬だけ目を細める。
「……できる」
「じゃあ、その一瞬で、削る」
「……あぁ」
次の瞬間――士稀が踏み込む。手を掲げ、空中に素早く五芒星と円を描いた。
「縛陣ーー縛れ!」
鋭い光がクモを拘束する。
「今だ!」
おもいっきり振りかぶる。
「うおおぉぉぉぉーーー!!!零閃ーーーーー!!!」
轟音とともに、圧縮された光が蜘蛛をめがけて放たれる。今までよりも、ずっと荒く、強い。反動で倒れそうになるのを、足を踏ん張って耐える。
光は蜘蛛に当たり、炸裂した。
「ギィィィヤァァァァ!!」
蜘蛛が倒れる。のしかかっていた黒く重い邪気が、削がれて消えかかっている。完全には倒せていない。
「これで……いいだろ」
息を荒げながら、俺は満足げに口角を上げる。
「伊都、やれ!」
魔法陣が完成した。陣を縁取るように光が広がる。
「みんな下がって!」
俺たちは一斉に飛び退いた。伊都が杖を突き立てて叫ぶ。
「魔法陣、展開!!出てきて――彦兵衛さん!」
魔法陣全体が光に満ちて、中からゆっくりとひとつの影が現れた。
「おいで」
伊都が手を差し出すと、その影がそっと伊都に触れる。伊都はびくんっと身体を揺らし、影がするすると伊都に入っていった。
『お初……すまなかった』
伊都ではない男の声が、伊都を通して発せられる。ぼんやりと、髷を結った男の姿が浮かび上がる。
男の言葉に、蜘蛛がぴたりと反応した。次の瞬間、その姿が揺らぎ――着物を着た若い娘の姿へと変わる。
『彦兵衛さん……』
高く美しい声が震えている。
『会いたかった』
ゆっくりと、二つの魂が近づいて寄り添う。光がやさしく広がり、洞窟の空気が変わる。
じんわりと、二つの光が消えていった。あたたかい甘い香りが漂う。魂が還るときの、残り香。
(……未練がなくなって、還っていったのか)
いつかの、伊都が供養したうさぎを思い出した。
(伊都は、祓わずに還せたんだな……)
洞窟内に静寂が訪れる。
「……終わったんか」
東間が、消えた光の方をみつめてぽつりと呟く。
「……あぁ」
士稀がうなずいて、ゆっくりと周りを見回す。
「……よかったぁ」
伊都は、身体から力が抜けたのか、その場にへたり込んで、ほっとしたように笑う。
俺は、しばらくその場に立ち尽くしていた。胸の奥が、じんわりと熱い。
(……これが、救うってことか)
士稀が静かに言う。
「祓うことだけが、救いではない」
俺は顔を上げる。
「……あぁ」
士稀は少しだけ目を細めた。
「お前の力も――無意味ではない」
その言葉が、ゆっくりと深く胸に落ちる。
「……そっか」
胸に手を当てると、思わず頬がゆるんだ。
「試験……どうなるんだろう?」
伊都はへたりこんだままで、近くに転がっている竹筒を拾った。
「封印はできていない」
士稀が淡々と答える。
「まぁ、ええやろ。ちゃんと還したんやから」
東間がけらっと笑う。
「だな」
俺もつられて笑った。
「上出来だろ」
まだ熱が残る手のひらを、ぐっと力強く握りこんだ。
(俺は――破壊するだけじゃない)
洞窟の外から、光が差し込む。俺たちは、その光に向かってゆっくりと歩き出した。


