桑谷くんの彼女(偽装)になりました。



〈翔side〉


廊下を歩いていると、前から長い黒髪をなびかせながら歩く女子生徒が近づいてきた。


ぼんやりと外の景色を眺めるその横顔は、この世のものとは思えないほど美しい。


その美しさに目を奪われる前に、おれはその子から目を逸らした。

相手の方はおれに気づくことなく、おれの真横を通り過ぎていく。


おれは息をするのも忘れてその場で固まってしまった。

しばらく経った後、ゆっくりと後ろを振り返る。


そこにはもう、あの子の姿はなかった。


 ◆


「なあ翔ー。お前、いつトップ獲んの」

「お前が獲らないんだったら俺が狙うぞ」


放課後。

恭介と隼人がいつも通りうるさい。