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私は全速力で夕陽の照らす街を駆け抜ける。
頭の中ではこれまで翔とともに過ごした日の思い出が走馬灯のように蘇る。
『はーいそこまでー。そいつ、死んじゃうから』
『華恋、あーんして』
『華恋ー、次の授業つまらないからサボろ』
いつも無気力で、わがままで、自分勝手で。
だけど人を傷つけるようなことは絶対にしなくて、友達思いで。
だけど私は、翔のことをまだ何も知らない。
彼がなぜあんなにも皆に慕われるのかも、一言で場を制す力の根拠も。
そして、どうして私に優しくしてくれたのかも。
「……っ」
どうしてだろう。
涙が溢れて止まらない。
やっと両親の仇を討てるというのに、私の心は晴れないままだ。
胸の奥でゆらめく感情の正体を、私はまだ知らない。



