桑谷くんの彼女(偽装)になりました。



私は当てもなく走り続けた。


自分がしていることは無意味なことなのかもしれない。
だけど動かずにはいられない。


「パパ、ママ、待ってて──。今、助けに行くから」


 ◆


呼吸も忘れてたどり着いた先。

そこには、愛する人たちの横たわる姿があった。


「はあっ、はあっ、はあっ」


冷たい吹雪が私の全身を凍らす。
手はかじかみ、感覚なんてものは何分も前に忘れていた。


「……、っ!」


そのシルエットが自分の両親だと認識した時、私はひゅっと息を呑んだ。


二人の手はがっちりと強く繋がれている。

数秒微動だにできずにいた私は金縛りから解けたように我に返り、二人の元まで走った。


しゃがみ込んで、二人の首筋に恐る恐る手を当てる。


「……っ、うそ、こんなの、やだ」


二人の体は信じられないくらい冷たかった。

まっさらな新雪が赤く染まっていく光景が視界の端に映る。


「ねえ、ねえってば! 二人とも、私を騙そうとしてるんでしょ? ねっ? そうだよね。ははっ、こんな悪ふざけよしてよ。早く、目を覚まして──」