桑谷くんの彼女(偽装)になりました。



低くつぶやいたその声は、誰の耳にも入ることなく冷たい床に落ちて消えていった。


「おれ、帰る」

「え? 今来たばっかじゃん」

「……るせえ」

「え、ちょ……っまじで帰るのか翔ー!」


恭介の声を背中で聞きながら、おれは旧校長室を後にした。


生徒が続々と登校してくる朝。
おれは人の波に逆らって来た道を戻る。


あの人の波の中に、華恋はいるのだろうか。

信じられないくらい美しくて、強くて優しい、花のような女の子は。


 ◆


「え、翔? 最近学校来てないけど……って華恋ちゃん翔から連絡もらってないの」

「もらってないです……ね」

「えー、でも華恋ちゃん、翔の彼女だよね?」


京さんの鋭い指摘に、言葉が詰まる。