桑谷くんの彼女(偽装)になりました。



その先は言えなかった。

私の前に片膝をついてしゃがみ込み、私の顔を覗き込んだ怜王。


その漆黒の瞳には、わずかに動揺の色が揺らめいている。


「……聞きました。只今捜索を開始しております。ですから、華恋様は我々を信じてお待ちください」


私を見つめる怜王のまっすぐな瞳。

逆らうことは許さないと暗に示している。


だけど私は──


「ごめん、怜王。それはできない」


ソファから立ち上がった私は、怜王の真横を通り過ぎて出口に早足で近づく。

深く深呼吸した後、私は床を蹴ってその場から駆け出した。


 ◆


喉の奥がひりひりと痛い。
冬の冷たい風が私の頬を容赦なく刺す。