桑谷くんの彼女(偽装)になりました。



翔は運転免許を持ってるんだ。
彼のことを新たに一つ知った。


「翔は髪、切らないの?」

「華恋は短い方が好き?」

「んー、どっちかって言うとそうだけど、翔は長い髪がよく似合ってると思う」

「ほんと? 嬉しい」


屋敷に着き、車から降りる。


「送ってくれてありがとう」


私はそう言って翔に手を振った。


「華恋、忘れ物」

「え、?」


───ちゅ。

甘いリップ音を響かせて、二人の唇が離れる。


いつ見ても浮き世離れした彫刻のような顔が離れていく。

翔はいたずらに笑った後、未だ放心状態の私を置いて車を発車させた。


唇に残る体温が今日はなんだか熱い。


翔の笑顔が頭から離れない。
夜の闇に浮かぶ明るい満月が、私を照らしている。


ほんのりと赤く色づいた、私の頬を。