「ねえ、おれの彼女になって」
…………は。
一瞬、何が起きたか分からなかった。
私が返事をする前に、唇に柔らかい何かがふれた。
それはすぐに離れることはなく、私の唇を柔く食んだ後にゆっくりと離れた。
目の前の男は私の表情を見るなり満足そうな笑みをたたえ、唇を親指で拭う。
その動作はまるで異国の王子様のようで、私はしばらく放心状態で桑谷を見つめた。
「それで、返事は?」
その冷たくて甘い響きにはどこか人を従わせる力があって、馬鹿みたいに頷きそうになる。
私はそれを必死に抑えて、口を開いた。
「偽物の彼女になら、なってあげてもいい」



