桑谷くんの彼女(偽装)になりました。



「……」


私は無言で櫻井さんを見つめた。
少し面倒だけど、この場を丸く収める一番の最適手は──


「櫻井さん、さっきは断ったけど、よければ私と──」


そこまで口にした時。

教室の前廊下から、わっと歓声が沸き起こる。


その中に、わずかながら女子生徒の黄色い悲鳴のようなものも聞こえてくる。


一体何事?

少し気になって廊下に視線を向けた。
その瞬間、視界の端に黄金に輝く何かが映った。


それが髪だと分かったのは、皆に騒がれているある男の姿が見えてから。
絹のように柔らかそうな金色の髪は、肩にまで伸びている。


一瞬、それが外国から越してきた帰国子女だと勘違いしそうになるほど、その男は見目麗しい顔をしていた。


紫色の瞳。生糸のように細くて綺麗な金髪。

首元にはへッドフォンが紫色に光り、着崩した学ランからは大人の男の色気というものがダダ漏れだ。