刈谷(かりたに)さあん!来期の予算申請、お願いしてもいいかな?!」

「もち、いいですよ。」

「ありがとう〜!助かる〜!」


刈谷さん、横浜支部では数字の鬼って云われてたんだよね。

と、眉を下げて笑う白河(しらかわ)さんは、私の2個上の先輩だ。

縮毛矯正で手に入れたというストレートヘアを揺らし、先輩が廊下の方へと小走りで向かう。



『西の(すぐる)がお目見えなすった!』  


白河先輩が、その人物を一目見ようと、他の女性社員の背中で爪先立った。

総務部課長代理、(すぐる)李月(りつき)30歳がこの経理部のある5階のフロアにやって来たのだ。

冷淡冷徹、無表情。

自分の仕事は自分の仕事、他人の仕事は他人の仕事。終わらないあなたの仕事を自分に頼まれても、それはどう足掻いてもあなたの仕事。

終われるように予定を組まなかったあなたが悪いのだと、昔先輩に楯突いたことがあるのだそう。

感情をあらわにすることなく一掃する冷めたグレーの瞳。色素の薄い髪からは、ほろほろと雪の結晶が落ちてきそう。

今憂先輩は、防災設備の点検で、フロアごとに消防署職員との検査に立ち会っているらしい。