翌日の日曜日。
カレンは住谷と街に出て、ぶらぶらしながら日本語を教わることにした。
お天気も良く、セントラルパークの芝生広場に座り、キッチンカーで買ったサンドイッチを二人で頬張る。
「そう言えばね、住谷が選んでくれたシャンパン、すごく美味しかった。お気遣いいただき恐縮です。って、合ってる?」
「大丈夫、合ってるよ」
「お気遣いとお心遣いは、どう違うの?」
「そうだな……。『お気遣い』は行動とか配慮に対しての感謝、『お心遣い』は思いやりとか優しさへの感謝って感じかな。でもそこまで深く考えなくてもいいと思うよ。どちらも感謝の意味で使われる言葉には違いないから」
「そうなんだ。じゃあ、住谷がシャンパンをくれたことに対しては『お気遣い』で、住谷が私のことを想って選んでくれた優しさに対しては『お心遣い』を使ったらどう?」
「いいね。美しい日本語を使う人だなって、俺は感心する」
するとカレンは、褒められたことに喜ぶ子どものように、ふふっと照れ笑いを浮かべる。
「カレン、君って本当はすごく素直で一生懸命な性格なんだね」
急に言われて、え?とカレンは住谷を見上げた。
「ううん。私、勝気で可愛げない性格よ」
「違うね。君はアメリカの一流企業でやっていく為に、自分を奮い立たせて努力を惜しまずにがんばってきた。アジア人だと見下されないように、凛とした強さを持ってね。誰かに寄りかかることなく、自分の足でしっかりと自立した、たおやかな女性だよ」
「……たおやか?」
「そう。しなやかで美しく、でもしっかりと困難に打ち勝つ芯の強さを持った人。俺が心から尊敬する最上級の女性のことだよ」
住谷に優しく笑いかけられ、思わずカレンは目をそらしてうつむく。
「そんな、私、全然そんなことない」
そう呟いた途端、なぜだか涙が込み上げてきた。
慌てて指先で目元を拭うと、住谷が手を伸ばしてそっとカレンの頭を抱き寄せる。
「その涙がなによりの証拠だ。君がずっと一人でがんばってきたことのね」
「違うの、これはそういうのじゃなくて」
「強情だな。だけどそれが君なんだろうね。俺だけは君の涙をちゃんと認めるよ」
住谷がポンポンと頭をなでると、カレンはまだブツブツと呟く。
「住谷、私本当にあなたが思うような女じゃないのよ」
「はいはい」
「その……、身も心も汚れた人間なの」
「俺には誰よりも清らかに見えるよ」
「だけど、あの。男遊びとか、しちゃったりして……」
「ブッ! それは妬けるな。だけど俺も人のこと言えない」
「だから、あの。あなたとはおつき合いできません。ごめんなさい」
頭を下げるカレンに、住谷はしばし沈黙した。
「……カレン」
「なに?」
「俺、君に告白したっけ?」
ハッとカレンは顔を上げる。
「えっ、嘘! しなかったっけ?」
「俺の記憶が正しければね、した覚えはない」
「やだ! どうしよう、ごめんなさい。じゃあ、あの、気にしないで!」
あー、恥ずかしい、と両手で頬を押さえるカレンに、住谷は優しく呼びかけた。
「カレン」
「はい?」
「俺とつき合ってください」
「……は? いや、だから、その話はもう忘れて」
「ああ、ここからが始まりだ。カレン、俺はひと目会った時からどうしようもなく君に惹かれた。君と言葉を交わすうちに、ますます君に惚れ込んだ。君は俺にとって最高の女性だ。もう気持ちを抑え切れない。カレン、俺のたった一人の女になってほしい」
カレンは言葉を失くして、ただ住谷を見つめる。
「カレン? 返事をくれる?」
「……だってそんなの、無理でしょう?」
「どうして?」
「あなたは明後日、日本に帰るのよ? 私をここに置いて」
「じゃあ、君も日本においで」
そう言ってから、住谷はすぐに視線を落とした。
「ごめん、そんなこと言えないよな。君がどんなにここでがんばっているか、俺は理解しているつもりだから」
小さく呟くと、再び顔を上げる。
「カレン、それなら俺の願いを聞いてくれる?」
「……あなたの、願い?」
「ああ。たった一日でいい。俺の恋人になってくれ」
カレンはなにも答えられない。
ただ切なさが胸に込み上げてきた。
「明日、一日だけでいい。俺のものになってほしい」
いい?と尋ねてくる住谷の瞳を、カレンはじっと見つめる。
優しさと温かさと愛おしさを宿したその瞳に、カレンはそっと頷いた。
カレンは住谷と街に出て、ぶらぶらしながら日本語を教わることにした。
お天気も良く、セントラルパークの芝生広場に座り、キッチンカーで買ったサンドイッチを二人で頬張る。
「そう言えばね、住谷が選んでくれたシャンパン、すごく美味しかった。お気遣いいただき恐縮です。って、合ってる?」
「大丈夫、合ってるよ」
「お気遣いとお心遣いは、どう違うの?」
「そうだな……。『お気遣い』は行動とか配慮に対しての感謝、『お心遣い』は思いやりとか優しさへの感謝って感じかな。でもそこまで深く考えなくてもいいと思うよ。どちらも感謝の意味で使われる言葉には違いないから」
「そうなんだ。じゃあ、住谷がシャンパンをくれたことに対しては『お気遣い』で、住谷が私のことを想って選んでくれた優しさに対しては『お心遣い』を使ったらどう?」
「いいね。美しい日本語を使う人だなって、俺は感心する」
するとカレンは、褒められたことに喜ぶ子どものように、ふふっと照れ笑いを浮かべる。
「カレン、君って本当はすごく素直で一生懸命な性格なんだね」
急に言われて、え?とカレンは住谷を見上げた。
「ううん。私、勝気で可愛げない性格よ」
「違うね。君はアメリカの一流企業でやっていく為に、自分を奮い立たせて努力を惜しまずにがんばってきた。アジア人だと見下されないように、凛とした強さを持ってね。誰かに寄りかかることなく、自分の足でしっかりと自立した、たおやかな女性だよ」
「……たおやか?」
「そう。しなやかで美しく、でもしっかりと困難に打ち勝つ芯の強さを持った人。俺が心から尊敬する最上級の女性のことだよ」
住谷に優しく笑いかけられ、思わずカレンは目をそらしてうつむく。
「そんな、私、全然そんなことない」
そう呟いた途端、なぜだか涙が込み上げてきた。
慌てて指先で目元を拭うと、住谷が手を伸ばしてそっとカレンの頭を抱き寄せる。
「その涙がなによりの証拠だ。君がずっと一人でがんばってきたことのね」
「違うの、これはそういうのじゃなくて」
「強情だな。だけどそれが君なんだろうね。俺だけは君の涙をちゃんと認めるよ」
住谷がポンポンと頭をなでると、カレンはまだブツブツと呟く。
「住谷、私本当にあなたが思うような女じゃないのよ」
「はいはい」
「その……、身も心も汚れた人間なの」
「俺には誰よりも清らかに見えるよ」
「だけど、あの。男遊びとか、しちゃったりして……」
「ブッ! それは妬けるな。だけど俺も人のこと言えない」
「だから、あの。あなたとはおつき合いできません。ごめんなさい」
頭を下げるカレンに、住谷はしばし沈黙した。
「……カレン」
「なに?」
「俺、君に告白したっけ?」
ハッとカレンは顔を上げる。
「えっ、嘘! しなかったっけ?」
「俺の記憶が正しければね、した覚えはない」
「やだ! どうしよう、ごめんなさい。じゃあ、あの、気にしないで!」
あー、恥ずかしい、と両手で頬を押さえるカレンに、住谷は優しく呼びかけた。
「カレン」
「はい?」
「俺とつき合ってください」
「……は? いや、だから、その話はもう忘れて」
「ああ、ここからが始まりだ。カレン、俺はひと目会った時からどうしようもなく君に惹かれた。君と言葉を交わすうちに、ますます君に惚れ込んだ。君は俺にとって最高の女性だ。もう気持ちを抑え切れない。カレン、俺のたった一人の女になってほしい」
カレンは言葉を失くして、ただ住谷を見つめる。
「カレン? 返事をくれる?」
「……だってそんなの、無理でしょう?」
「どうして?」
「あなたは明後日、日本に帰るのよ? 私をここに置いて」
「じゃあ、君も日本においで」
そう言ってから、住谷はすぐに視線を落とした。
「ごめん、そんなこと言えないよな。君がどんなにここでがんばっているか、俺は理解しているつもりだから」
小さく呟くと、再び顔を上げる。
「カレン、それなら俺の願いを聞いてくれる?」
「……あなたの、願い?」
「ああ。たった一日でいい。俺の恋人になってくれ」
カレンはなにも答えられない。
ただ切なさが胸に込み上げてきた。
「明日、一日だけでいい。俺のものになってほしい」
いい?と尋ねてくる住谷の瞳を、カレンはじっと見つめる。
優しさと温かさと愛おしさを宿したその瞳に、カレンはそっと頷いた。



