「マリア!」
「はい! って、カレンさん? どうかしましたか?」
「フミヤ、ちょっと失礼」
カレンは真里亜の腕を掴んで文哉のそばから連れ出すと、真剣な表情でグッと真里亜に顔を近づけた。
「マリア、正直に教えて」
「は、はい。なんでしょう?」
「私の日本語って、古くさい?」
は?と、真里亜はキョトンとする。
「いいから答えてちょうだい。私の日本語って、なにがどう古くさいの?」
「えっと、古いというより、その……なんと申しましょうか」
「うん、なに?」
「カレンさん、日本を離れてどれくらいですか?」
「なによ、急に。生まれは日本で、中学生になる時に父親の転勤で渡米したの。ハイスクールを卒業する頃に父の本社への異動が決まったんだけど、両親だけ帰国して私はこっちの大学に残ったの。で、そのまま今に至るって感じ」
「じゃあ、普段は日本語を使う機会はないんですね」
「そう。だからもっぱら漫画を読んで、今の日本語を学んでるわね」
そう言うと真里亜は「それだ!」と人差し指を立てた。
「それって、どれよ?」
「カレンさんの口調、時々漫画のセリフみたいなんですよね。間違ってないんですよ? だけどなんだか、こう、お芝居みたいな感じがするというか……」
なんてこと、とカレンは青ざめる。
「私、自分のこと、かなりやり手の通訳だと思ってたのに。まさか古くさくてダサいと思われてたなんて」
「いえ、あの。通訳さんとしては問題ないどころか、素晴らしいです」
「だめよ! ああ、イケてる女気取りで、スンって通訳してたのに、まさかそんな……」
「ですから、大丈夫ですって。カレンさんはバリバリ仕事ができるかっこいい女性です」
「いいえ、いけないわ。心の中で、『ぷぷっ、古くさ』って思われるなんて、この私が許さないのよ!」
「…………」
「なに? 今のもいけなかった?」
「えっと、そうです、ね。若干……」
ああ、もう、どうしよう! とカレンは頭を抱えた。
「マリア、今夜うちで私に特訓してくれない? 生きた日本語を徹底的に教え込んでほしいの」
「え、そう言われましても……」
そう言って真里亜は、離れたところにいる文哉に目を向ける。
視線に気づいた文哉が真里亜を見て、「ん?」とばかりに優しく微笑んだ。
「キーッ! なにこの甘い空気! 分かったわよ。あなたたちの間に割って入ったら、胃もたれしそうだからやめておくわ」
はあ、と途方に暮れてため息をついたカレンの視界に、ふと同僚と談笑している住谷の姿が入り込む。
(……背に腹は代えられない。だけど、いや、やっぱり)
じっと考えては首を振り、またじっと住谷を見つめる。
すると視線を感じたのか、住谷が振り返った。
カレンと目が合うと、文哉に負けず劣らずの甘い笑顔で「ん?」と首をかしげる。
(だめだっつーの!)
心の中で叫んでから、カレンはふいっと大きくそっぽを向いた。
「はい! って、カレンさん? どうかしましたか?」
「フミヤ、ちょっと失礼」
カレンは真里亜の腕を掴んで文哉のそばから連れ出すと、真剣な表情でグッと真里亜に顔を近づけた。
「マリア、正直に教えて」
「は、はい。なんでしょう?」
「私の日本語って、古くさい?」
は?と、真里亜はキョトンとする。
「いいから答えてちょうだい。私の日本語って、なにがどう古くさいの?」
「えっと、古いというより、その……なんと申しましょうか」
「うん、なに?」
「カレンさん、日本を離れてどれくらいですか?」
「なによ、急に。生まれは日本で、中学生になる時に父親の転勤で渡米したの。ハイスクールを卒業する頃に父の本社への異動が決まったんだけど、両親だけ帰国して私はこっちの大学に残ったの。で、そのまま今に至るって感じ」
「じゃあ、普段は日本語を使う機会はないんですね」
「そう。だからもっぱら漫画を読んで、今の日本語を学んでるわね」
そう言うと真里亜は「それだ!」と人差し指を立てた。
「それって、どれよ?」
「カレンさんの口調、時々漫画のセリフみたいなんですよね。間違ってないんですよ? だけどなんだか、こう、お芝居みたいな感じがするというか……」
なんてこと、とカレンは青ざめる。
「私、自分のこと、かなりやり手の通訳だと思ってたのに。まさか古くさくてダサいと思われてたなんて」
「いえ、あの。通訳さんとしては問題ないどころか、素晴らしいです」
「だめよ! ああ、イケてる女気取りで、スンって通訳してたのに、まさかそんな……」
「ですから、大丈夫ですって。カレンさんはバリバリ仕事ができるかっこいい女性です」
「いいえ、いけないわ。心の中で、『ぷぷっ、古くさ』って思われるなんて、この私が許さないのよ!」
「…………」
「なに? 今のもいけなかった?」
「えっと、そうです、ね。若干……」
ああ、もう、どうしよう! とカレンは頭を抱えた。
「マリア、今夜うちで私に特訓してくれない? 生きた日本語を徹底的に教え込んでほしいの」
「え、そう言われましても……」
そう言って真里亜は、離れたところにいる文哉に目を向ける。
視線に気づいた文哉が真里亜を見て、「ん?」とばかりに優しく微笑んだ。
「キーッ! なにこの甘い空気! 分かったわよ。あなたたちの間に割って入ったら、胃もたれしそうだからやめておくわ」
はあ、と途方に暮れてため息をついたカレンの視界に、ふと同僚と談笑している住谷の姿が入り込む。
(……背に腹は代えられない。だけど、いや、やっぱり)
じっと考えては首を振り、またじっと住谷を見つめる。
すると視線を感じたのか、住谷が振り返った。
カレンと目が合うと、文哉に負けず劣らずの甘い笑顔で「ん?」と首をかしげる。
(だめだっつーの!)
心の中で叫んでから、カレンはふいっと大きくそっぽを向いた。



