「え? なんで……」
「碧衣ちゃん、捻挫したなーって思って」
「先輩のことじゃなかったんですか?」
私を保健室に連れてきてくれるための方便だったんだ。そう気付いたときには、ポンと上履きを脱がされていた。
「……あの」
「あれ? 右足だよね?」
「そうですけど、そうではなく――ギャッ」
続いて指が足首を滑り――どうやら靴下を脱がされそうになったらしいけれどそのときは気付かず――変な声と一緒にひっくり返りそうになった。というかもう半分くらいひっくり返っていて、後ろの机に肩を乗せながらお尻で椅子を蹴飛ばして――倒れそうになったのを、椅子ごと腰から支えられた。
「あごめん、大丈夫?」
ドッと心臓が跳ね上がる。鼻先が触れそうなほど近い志彗先輩の顔に、今度こそ悲鳴を上げてしまいそうだった。いや、むしろ悲鳴を上げる余裕すらなかった。でも不思議とその顔をしっかり見つめる余裕はあった。
体力測定中も思ったけど、この人、本当に睫毛が長い……。瞳は吸い込まれそうなほど黒く、見れば見るほど女の子みたいに可愛い目……。
「碧衣ちゃん、すげぇ睫毛長いね」
近い……! 観察するように小首を傾げて覗き込むその仕草に、いよいよ心臓はちぎれそうだった。そうだ、私がじっくり観察できるということは、志彗先輩も私をじっくり観察できるということだ。



