蒼樹から聞かされた話に、陽葉は目を瞬いた。
これまでの花嫁は悲しい最期を遂げたとばかり思っていたが、そうではなかったのだ。
「と、いうわけですが、陽葉さんはどうされたいですか。選択権は貴女にあります。欲を言わせてもらうと、貴女が私の東の邸宅に来てくださればとても嬉しいですが」
蒼樹が陽葉の手をとって、甘やかに微笑む。その流れで陽葉の手に口付けようとするのを、紅牙が割って入って止めた。
「さりげなく誘惑するんじゃねえ。陽葉は俺がもらいうけるんだよ!」
「だから、それは陽葉さんが決めるんですよ」
紅牙が陽葉を引き寄せようと肩に手をかけると、蒼樹も笑顔で陽葉の手を離すまいとぎゅっとつかむ。
両方とも、ものすごいバカ力だ。
「い、痛い……」
「離してあげたらどうですか、紅牙。痛がってますよ」
「おまえが離せ。これまで何人もの花嫁をおまえに奪われたんだ。陽葉は絶対に渡さねえ」
小さく悲鳴をあげた陽葉を挟んで、蒼樹と紅牙が互いを牽制して睨み合う。
「あまりしつこいと嫌われますよ」
「それはおまえもだろう、蒼樹。今回ばかりは俺に譲れ」
「なぜそこまで陽葉さんに執着するんです?」
「なぜって、わかってるだろう。ただ、ひとつ言うなら……、顔が好みだ」
「生憎ですが、私もです」
ギリリと奥歯を噛む紅牙に、蒼樹がしたたかな笑顔を見せる。
ふたりの龍神に奪い合われるような奇妙な状況に、陽葉はただおろおろするばかり。
無能で役に立たないはずの自分が、なぜこのようなことになっているのか。



