龍神島の花嫁綺譚


(私は身代わりの花嫁。無能な私は、ここでも必要とされない――)

 当然だ。可愛がってきた和乃や恋人だった喜一にすら捨てられたのだ。そんな自分が、誰かに求められるはずもない。

 身代わりの花嫁にすらなれない自分は、どうなってしまうのか。

 絶望してうつむいたとき、たんっと飛び跳ねて近付いてきた紅牙が陽葉の肩を抱いた。

「そんな落ち込んだ顔をするな、陽葉。言っただろ、白玖斗が気に入らなければ俺がもらい受けてやるって。おまえのことは俺が面倒を見てやるよ」
「え……?」
「ついてきな。南の邸宅に案内しよう」

 紅牙がニヤリと不敵に笑う。

 一瞬ドキッとした陽葉を、紅牙が軽々と抱き上げた。

「は、え……? なに……?」
「俺の屋敷は島の中でも一番明るくてあたたかいぞ。庭もあるからきっと気に入る」

 紅牙が鼻歌を唄うように話しながら、陽葉を座敷の外に連れ去ろうとする。だが、風のような速さで進み出てきた蒼樹がそれを許さなかった。