無気力な王子様は、今日も私を溺愛したがる



少し重たいまぶたを開けて、僕は音のした方を見やる。


「母、さん……」


音がしたのは、僕の部屋の扉だった。

だけど、そこに立っていたのは母さんじゃない。
優穂さんだ。

……そっか。夢だったんだ。


「いっちゃん……」


優穂さんは昔から、僕のことを〝いっちゃん〟と呼ぶ。
もう中二になった僕からすれば少し恥ずかしいと思うけれど、優穂さんからすれば気に入っている愛称らしい。

優穂さんは昼食を持ってきてくれたみたいだ。

困惑したように僕を見たあと、優穂さんは僕の机にそれをおいた。


「母さん……っ」


さっき見たのは、僕にとって都合のいい夢。
本当は、母さんたちは──もうこの世にはいないんだ。

このとき、嫌というほどそれを自覚した。

もう、母さんたちはいない。父さんも、瑞樹も。
僕はもう……、独りなんだ。

十四年間、当たり前だと思っていた日々があの日を境に完全に崩れ落ちた。