彼の手が私の後頭部に回されて、距離がゼロになろうとする。


……いやだ……っ。


そう思って、反射的に彼を突き飛ばしてしまった。


彼は、地面に尻もちをついて、私を見ていた。



「……へえ、君ってそういうことしちゃうんだ?」

「あ……あの、まず、誰ですか……っ」

「知らないの?俺のこと」



へえ、と笑って彼は立ち上がる。


そしてまた私の方に近づいてきて、私の頬へと手を伸ばしてきて。



「3年の、吉岡 朔(よしおか さく)
俺のこと知らないだなんて、傷ついちゃったなー」

「……っ」



そう言うと、彼──吉岡先輩は、私の手と自分の手を絡めて、いわゆる恋人繋ぎをさせて。


私の方に、ぐんと顔を近づける。



「たくさん君のこと尾行して、家を特定してここまで来たっていうのに。そんな対応されるなんて」

「び、こう……?」

「そうだけど?」