星彩を駆け抜けて。

 季節は夏。

 いつかに見た桜の木は新緑の葉をつけ、太陽が辺りを照らしている。

 そんな自然に囲まれた土地に、とある高校が一つ。

 霞河高校。―――別名“暴走族の巣窟(そうくつ)”。



「はじめまして、両親の仕事の都合で転入してきました。黒野瀬(くろのせ)ユリカです。よろしくお願いします」

 黒野瀬ユリカ。それが、私の今の名前。

 いわゆる、偽名というやつだ。

 それに加え、髪や瞳の色も変えた。

 銀髪に深紅色だった瞳は、今や茶髪に若草色の瞳になっている。

 勿論、”両親の仕事の都合“なんてことも嘘。

 と、いうことで。多分、バレないはず………!

 私は教卓の前から教室全体を見回す。



《―――夜霧神(ターゲット)確認》



「じゃあ、黒野瀬は―――あぁ、夜霧の隣が空いてるな。そこでいいか?」

「はい、ありがとうございます」

 

《―――夜霧神の隣を確保》



 夜霧神の隣の席に移動し、さも笑顔のかわいい女の子を演じる。

「黒野瀬ユリカといいますっ、よろしくお願いしますっ!」

 微笑みながら挨拶をする。

「夜霧神」

 重音が低い、大人びた声。

 夜霧神は名前だけを簡潔に言うと、すぐに前を向いてしまった。

 あまりにも簡潔で素っ気なさすぎる挨拶に、正体がバレたのではないかと動揺してしまう。

 冷静に………。

 大丈夫、事前にこういう性格なのは把握している。

「も〜、神〜。挨拶ぐらいしろよ〜」

 突然、前から陽気な声が聞こえる。

「あ、俺、桜羽結人(さくらばゆいと)。よろしくね〜」

 桜羽結人。

 可愛らしい外見や口調とは裏腹に、“詠夢”No.3の実力者。

「桜羽さん、よろしくお願いしますっ」

「あぁ、俺のことは結人でいいよ~。神もいいよな?」

 神に一応許可を取り、また私のほうを向く結人。

「私もユリカで大丈夫です………!」

「ん、ユリカちゃん♪」

「えっと………結人………?」

 私が少しドギマギしていると、

「そんでコイツは流川海翔(るかわかいと)

 結人が隣にいる男の子を指さして言う。

 ちなみに流川海翔も“詠夢”の幹部。

 どうやら、この辺りの席の人は皆“詠夢”の幹部みたい。

 それも、かなりの実力者揃い。

「お前、俺に話しかけんなよ。かけたら殺すぞ」

「ひぇっ」

 突然流川海翔に凄まれ、不覚にも変な声が出てしまう。

「ごめんねユリカちゃん、海翔は女嫌いでさ」

 今度はみんなとは違い、高く明るい声が聞こえた。

「ウチは椎名澪里(しいなみおり)。気軽に、みおりんって呼んで!」

「ありがとうございます、みおりん」

 同年代の子をあだ名呼び…初めてだっ………。

「いえいえ。おい双子、お前も自己紹介しろよ」

 みおりんがそう言って声かけたのは、前の席の男の子2人。
 
 眠たそうに目を擦る、ふわふわとした雰囲気。

 どうやら、双子らしい。

         奏斗(かなと)ー。奏斗
「ん、オレは沙座凪(さざなぎ)      って呼んでー」
         奏汰(かなた)ー。奏汰

 2人が声を揃えて言う。

 わっ…すごい、こんなことほんとにあるんだ………。

「はい、よろしくお願いします。奏斗、奏汰」

「「つーか敬語やめてよー」」

「はいっ。あ………う、うん?」

 私がそう言うと奏斗と奏汰が「あははっ」と笑ってくれた。

 多分だけど、神もちょっと微笑んでくれた、と思う。

 こういう友達とのやり取りが新鮮で、仕事なんか忘れたくなってしまう。

 思わず頬が緩む。

 その瞬間、



ーーーオマエの感情はいらない。心なんて捨てろ。



 脳内で過去の記憶がフラッシュバックする。

 そうだ。

 私がこの高校に転入した理由はただ一つ、夜霧神の殺害。

 情はいらない。



 私はまた笑顔を作って、神たちのほうに向き直った。