「あーあ。琥珀、行っちゃった。絶対さっきの星奈ちゃんお得意のビンタで記憶思い出しちゃったよね」


「…だろうね」


「せっかく当て馬の俺たちが星奈ちゃんを奪えるチャンスだったのに、残念」


「本当は奪う気なんてなかったくせに、よく言うよ。記憶をなくしてから、北斗はずっと琥珀に星奈の話をしつこいくらい聞かせて思い出させてあげようとしてただろ」


「…別に。星奈ちゃんのためだよ。弱音を呑み込んで平気なフリをして、いつも泣きそうな顔をしていることに気づいていないんだ。恋に落ちたのは星奈ちゃんの涙だったけど俺は星奈ちゃんの笑顔の方が好きだから。星奈ちゃんが笑ってくれるなら、俺は悪役にだってなんだってなれるよ。世那こそせっかくのチャンスなのに、大人しいよね。星奈ちゃんのことは諦めたの?」


「はは、俺が諦める?そんなわけないでしょ。琥珀が記憶を失ってるのをいいことに星奈を自分のものにしたって、なんの意味もない。そんなの弱いやつがすることだ。だから北斗だって無理矢理奪おうとしないんだろ。それに俺も星奈が笑ってくれればそれでいい」


「やっぱり結局はそうだよね…。星奈ちゃんの隣にいるべき人は、最初から琥珀しかいないんだよ」


「おーい、北斗くーん!世那くーん!琥珀の記憶が戻ったよー!」


「悔しいけど琥珀の隣で笑っている時の星奈ちゃんが、一番輝いてるもんね」


「ああ、間違いない」



君の隣にいることはできないけど、誰よりも君が笑顔で過ごせる未来を願っている。


大好きな人の隣で笑っている君が、俺の好きになった君だから…。