ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。

ーー

ルシフォールは柄にもなく子供の様にはしゃいだ顔で、リリーシュの手を引き駆けていく。

「ルシフォール様、待ってくださいっ」

「ほら、早く」

金色の髪を靡かせ、わくわくとした表情でこちらを見つめるルシフォールを見て、リリーシュの胸はどきどきと高鳴る。

(私はいつだって、永遠にこの方に恋をしていられそうだわ)

手を引かれ駆けながら、リリーシュはふと泣き出してしまいそうな程幸せだと思った。

彼女はずっと、自身に降りかかる全てを″受け入れる”事で心を守ってきた。それが一番、周りも自分も傷付かない良い方法だと思っていたからだ。

やりたい事も本当の気持ちも、初めからないものとして閉じ込めた。それが不幸だと思った事もなかったし、幼馴染であるエリオットが傍に居てくれたから確かに彼女は幸せだった。

しかしルシフォールに出会ってから、その価値観が変わっていったのだ。

傲慢で人の気持ちを考えられない自分本意なルシフォールの事が、リリーシュは嫌いだった。しかし皮肉にも彼とエリオットを重ねる事で、リリーシュはルシフォールに慣れていった。

そうして接していくうち、少しずつ彼の心の中に巣食う寂しさの様なものがリリーシュに伝わってきた。本当は誰よりも愛されたいというルシフォールの感情を、リリーシュは愛しく思った。

そして彼女自身も、ルシフォールの前ではありのままの自分でいられた。あれがしたいこれがしたいと、子供みたいにはしゃぐリリーシュをルシフォールもまた可愛いと感じた。

それはまるで運命の様にぴたりと、二人の心は重なったのだった。




「リリーシュ、見て」

小高い丘を駆け上がり、リリーシュは肩で荒い呼吸を繰り返す。ルシフォールの言葉に顔を上げると、ざぁっと吹いた春の強い風と共に、目の前が明るく広がった。

「まぁ…綺麗…」

遠くに見える、数十頭の馬達。一斉に原っぱを駆ける姿が実に見事で、リリーシュは一瞬言葉を失った。

それにルシフォールについていくので精いっぱいで気が付かなかったが、二人の周りには色とりどりの草花が視界いっぱいに咲いていた。

「約束しただろう?暖かくなったら、バスケットを持ってまた来ようと」

「ルシフォール様…」

ルシフォールは照れくさそうに頬を掻くと、バスケットをベンチに置く。そしてもう一度リリーシュの手を取り、アイスブルーの瞳をきらきらと揺らめかせた。

「リリーシュ。俺はお前を、心から愛している。どうか結婚して、生涯傍にいて欲しい」

「……」

「嫌、か?」

いつまでも答えないリリーシュに、ルシフォールは心配そうに彼女の顔を覗き込む。リリーシュはその瞳いっぱいに涙を溜め、とびきりの笑顔でルシフォールに微笑んだ。

「もちろんです!私も貴方様を心から愛しております、ルシフォール様」

「リリーシュ…」

「もう、嫌だわ。こんなに嬉しいのに、涙が止まらないなんて」

泣きながら笑うリリーシュが心から愛おしく、ルシフォールは力強く彼女を抱き寄せた。泣いているのを悟られない様、リリーシュの肩に顔を埋める。

「お前に出会えて良かった」

「私もです、ルシフォール様」

そっと唇を重ねた瞬間再び強い風が吹き、二人の髪をはたはたと靡かせる。金と白金が交ざり合い、それはまるで天使が祝福し舞っているかの様に幻想的だった。