狂気のお姫様


「もう飽きてきたからさっさと済ませるね」

ゾワリ

鳥肌が立つのが自分でも分かる。

さっきまで異常な笑みを浮かべていた律は、スッと真顔に戻ると、

ボキィッ

「ぎゃぁぁぁああああ!!!!!!!」


迷うことなく女の腕を折った。


「すごい音ー!」


次の瞬間にはまた笑っていて、さっきの顔は見間違いかと思わされるぐらいだ。


「…ヒュ-……ヒュ-…」

辛うじて息をしている女は今にも死にそうで、思わず哀れに思ってしまう。

もう1人の女はというと、机と椅子に埋もれたままピクリとも動いていない。強い力で吹っ飛ばされたのであろう、まぁ、生きてはいると思うが、顔面は血だらけ、骨も折れているかもしれない。


「こっちは死ぬところだったんだから、骨の1本や2本でぎゃーぎゃー言わないでよね」

言ってることは滅茶苦茶だが、俺も腸が煮えくり返っていたので、仕返しには感謝している。


「はぁー…」

恍惚とした表情を浮かべる律に思わず心臓が跳ねる。


「あ、終わりましたので」

ぐりんっと顔をこちらに向ける律は、陽介の言った通り、どこか緩い雰囲気。

ただ、本当にサクッと人でも殺しそうなオーラに、常人ではないと思わされる。


「清々しいまでの仕返しだね」

「一定の基準を超えた奴は骨折らないと」

「それってどういう基準なわけ」

「気分です」


最低だ。


「あ、今最低だっていう顔したでしょ」

「いや」

「ふぅん。まぁ…、陽ちゃんには言わないでくださいね」

「なんで」

「怒られるので」

「言っとく」

「え…ドS…?」


もうさっきの緩さはなく、いつもの東堂律に戻っているようだ。


「あんた、狂ってるね」

「褒めてます?」

「そこそこ」

「褒め言葉ととっておきますね」

「あと、裏では俺のこと羽賀愁って呼んでんだ」

「あっ」


しまった、という顔をする律は「あれ、おっかしいなぁ」と白々しく頭をかいている。

本人は完全にスイッチが入ってしまっていたので、名前の呼び方なんて考えなかったのだろう。佐々木さん、羽賀さん、と律儀に呼んでいるとは思っていたが、裏ではフルネームとは。


「そう聞こえました?」

「ばっちり」

「聞き間違いですかね?」

「だと思う?」

「…」


しかし、律をいじめるのは楽しい。


【side 羽賀 愁 end】