狂気のお姫様


【side 羽賀 愁】


「あぁ……あなたか」

ゆらりとこちらを向きそう言うと、ニヘラと笑いながら「どうも」と頭を下げた律。

1人は机と椅子に埋もれ、1人は腕を折られようとして泣き喚いているそんな状況。自分でもタイミング良く現れたものだと思うが、たまたま通りかかったら喚き声と、聞き覚えのある女の声が聞こえたのだから通り過ぎるわけにもいかない。


「すみませーん、こんな格好で」

「…いいけど」



違うな、と瞬時に思った。

前思ったのはいつだったか、路地裏で男女数名を血祭りにあげていたときか。あの時は終わった後だったから一瞬だったが、今回は真っ只中。

狂ったような笑みと、異常なオーラ。

人間ではないのか、と思わず疑ってしまう佇まいに、何故か仲間意識を感じ、心の中で笑みを浮かべてしまう。


「何故こんなところに?」

「たまたま。叫び声と聞き覚えのある声が聞こえた」

「タイミング良いですね」

「そうだね」

「見て行くつもりですか?」

「面白そうだし」


少し眉間に皺を寄せた律。『何が面白い、だ』と心の中で悪態をついてそうな顔をしている。



「面白いものはありませんけど」

「それは俺が決めるよ」

「ふぅん」


首を傾げると、ゆっくりと、律が踏み台にしている女に向き直る。

「だすけて!!!!羽賀さん!!!だすげてくだざい!!!!」

今度は自分が首を傾げる番だ。

俺の姿が目に入った女は何故か俺の名前を呼び、助けを求めてくるが、俺はこんな女知らない。


「すごーい。この状況であの人に助け求める?」

「た…たす、けて…!!!」

「ねぇ分かってる?佐々木夕殺そうとしたのに、羽賀愁に助けを求めるの?」

「…!!!ちがっ!!!」


あぁ、なるほど。この女たちなのか。合点がいった。

こないだ、夕の頭上に植木鉢が落ちてきた。律の声で夕の首根っこを掴んで引っ張ったが、もし遅れていたら死んでいたかもしれない。


「助けてって言ってますけど…、助けます?」

「なんで助けなきゃいけないわけ」

「らしいよ」


女は絶望的な顔で、顔は真っ青だ。


律が自分を狙ってやったことだ、と主張したので、犯人探し及び制裁を全て任せてはいたが…。


「お気に召しました?」

再びこちらを向いてそう聞く律に、

「とても」

そう返すと、満足そうにニコリと笑った。


「ちが!!!ちがうんです!!!私たちじゃないんです!!!」

「そっかそっかー、うるさいよ」

ガンッ

女の背中に乗せていた足を頭に乗せかえ、床に思い切り踏みつけると、女は声にならない叫びをあげている。