狂気のお姫様

ラストの1人に目を向けると、まるで産まれたての小鹿のようにガタガタ震えている。


「ひぃっ、ば、化け物…!」

「ありがとう。よく言われるんだそれ」


悪いけど、褒め言葉として受け取るよ。言われ慣れてるしね。
私を『化け物だ』という奴の表情はいつだって恐怖に歪められてて、快感以外の何物でもないんだから。


カラカラカラ…

鉄パイプを引きずって一歩ずつ男に近づいていく。


「く、くるな、くるなくるな!!!」

あれ、泣いてない?さっきまでの威勢はどこへいったのやら。


「どうしたの?顔が青いよ?」

「やめろ!くるな!」

「青いから、赤くしなきゃ、ね」

「うわぁぁぁあ!!!!!」

「あはは」


もう戦う気なんてこれっぽっちもないんだろう。ただ逃げ腰の男を追いかけて蹴りあげる。

「ゲホッ、や、やめ…」

「なんてー?聞こえなーい」

「ゲフッ、ゴフッ」


地面に倒れ込んだ男に馬乗りになって殴り続ける。

もう顔なんて元の原型をとどめていなくて、真っ赤に腫れ上がっている。

殴り続けたせいで、手は血で真っ赤に染まっている。
やだなぁ、ちょっと制服に付いちゃったじゃん。手洗いしないとなー。あ、その前にジローさんにバレたら怒られちゃう。

「おーい、意識あるー?」


ひゅーひゅーと、細い息をしている男の肩を、足でツンツンするも、返事はない。

「一瞬で終わっちゃった。つまんないなぁ」


まさにそれは地獄絵図。真っ赤に染まった路地裏は、この世のものとは思えない。


「あ、まだだったわ」


忘れてないよ。

クルリと3人の女の方を向く。
合わせたかのようにビクッと大きく肩を揺らす女たちの顔は、涙でボロボロだ。


「あーらら、泣いちゃって」

呼び出しをすっぽかされ、体育館で待たされたあげく、期待していた男たちはボロボロで全員殺られている状態。


「ご、ごめんなさっ…」

「聞こえないや」


謝られても許す気はないので、謝罪の言葉は聞かないでおくよ。


「ちがうっ、ちがうのっ!」

「何が?」

「あたしは!やらされて!やめようって言ったんだけど!」

突然の責任転嫁に、他の女2人は驚愕の目でそいつを見つめる。

窮地に陥ったとき、こういった理由を吐くやつがいるが、この期に及んでその言い訳はない。誰がそんな言い分を信じると思うのだ。

「あんた何言ってんの!?」

「最低!」

お前ら3人全員最低だぞ。

「うるさい!とにかくあたしは違うの!!!!」

半狂乱の女を見るのはなかなかキツいものがあるし、こいつらの仲間割れなんてどうだっていい。


「話し合い終わったー?1番最初誰ー?」

鉄パイプをコンコン地面に叩きながらそう言うが、これで挙手するやつはまぁいないだろうな。