狂気のお姫様

「…は?何言ってんの。ハッタリでしょ」

「そ、そうよ。如月さんと知り合いなわけないじゃないこんな奴が」

「そうだよな、天の女は鹿島さんだろ…?」



こんな嘘、自信満々につくはずないでしょ。それに一応訂正しておくが、鹿島杏奈は残念ながら天の女ではない。

と思いつつ強がる目の前の奴らにニヤリと笑う。


「じゃあ、電話するね」

ポケットから携帯を取り出し、『陽ちゃん』の文字を見てニヤニヤ。ボタンをポチッと押してスピーカーにすると、電話の相手はすぐに出た。


《なんだよ律、珍しい》

「やっほー、如月陽介さん」

《は、きも。陽ちゃんと言え》


昔からそうなんだけど、『陽ちゃん』って呼べって言い出したの陽ちゃんなんだよね。ずっと前に『陽介』って呼んだらビックリするほど怒られた。『陽ちゃん』の方がお兄ちゃん感あっていいんだと。お前ただの幼馴染だろ、と思うが、呼び方であんなに怒られるならもう『陽ちゃん』でいい。


電話の相手が正真正銘、あの天の如月陽介だと分かったのだろう。さっきからみんな震えてるよ?どうしたの?

他校の2人も青ざめていることから、彼らの名は他所にまで知れ渡っているのだな、と感動。


「あのねー、今呼び出されてリンチ前なんだけどさー」

《…はぁ?》


お、いい反応。


「なんかね、この女たちがね、陽ちゃんたちが私を邪魔に思ってるって言い出して」

《どの女たちだよ。てかなんだそれ》

「だから直接聞いてみるねって陽ちゃんに電話した」


要点だけ伝えると、彼は理解したようだった。そのため声が少しだけ楽しそうに聞こえる。


《大事な大事な律ちゃんを邪魔なんて思うわけないだろ》

それは言いすぎ且つキモすぎ。


「んー、でも電話だし陽ちゃんが本物って信じてくれてるか分かんないし〜……今から来る?」

《可愛い律ちゃんの頼みだ。行ってやろうかなぁ》

だからそれは大袈裟且つキモすぎ。


「だってさ」

青ざめている男女に向き直る。


「え、本物…?」
「同姓同名とかじゃねぇの…?」
「如月陽介なんて他にそうそういないだろ!」
「俺ら天が出てくるなんて聞いてねぇぞ!」
「あたしたちだって知らないし!」


仲間割れを始めた彼らに、冷ややかな視線を送る。

別に、私が気に入らないからボコる、っていう理由ならまだしも彼らは『天が』とわざわざ天を理由にしたのだ。だから私はその天のメンバーにそれが本当かどうか確認した。だと言うのに何を今更焦っているのだろう。

私が陽ちゃんと知り合いであってもそうでなくても、本人に確認すればそれが嘘か本当かなんてすぐに分かるのだ。小学生でも分かる。


まぁ、私も本気で陽ちゃんを呼ぶつもりはないのだ。


だって、こいつらは私の獲物だから。


今から盛大に殺るというのに、陽ちゃんが来たら怒られるだろうが。やり返すことには怒らないけど、やり過ぎることにはいつもプリプリ怒ってるママ陽ちゃん。

やり過ぎないと私がスッキリしないんだからしょうがない。