狂気のお姫様

「小田って下の名前なんていうの」

「嘘でしょ驚愕」

「花子とかだっけ」

「当てる気ないだろ」

「ない」



ふと思ったのだ。
毎日小田小田言ってたけど、コイツも人の子、名前があるはずだと。

「とか言って私の名前分かんないでしょ」

「律だろ」

「なんで知ってんのこっわ」

「逆になんで知らないと思ったのこっわ」

「で?なんて言うの」

「奏見(かなみ)」

「難しいから花子でよくない」

「そんな簡単に改名できる日本の法律ないから」

「花子に改名しても呼び名は小田だけど」

「だろうな律ちゃん」

「きっしょ」


まぁ、こんなくだらない話してるっていうことは、

「暇」

「それ」

暇なのだ。


ここは不良校。何度も言うが不良校。

今日の朝、1階の窓ガラスが全部割られていたらしい。それで先生たちが会議やら何やらに出ているため自習になってしまったのだ。

授業に最低限出席してテストを受ければ進級できる城ヶ崎高校だが、喧嘩や揉め事に関しては教師陣は我関せず。しかし今回はそういうわけにもいかなかったのだろう。

自習と言われて真面目に勉強する生徒もいないので、動物園と化している教室。


「何か面白いことないかな」

「東堂が言うと物騒だな」

「なにそれ失礼」

「面白いことないかなとか言ってたら面倒なことが舞い込んでくるぞ」

「まさか」

そんな簡単に面倒事が続いてたまるかっての。



「律ちゃーん!」

「「出た」」


思わず小田と同じタイミングで同じことを言ってしまった。仲良いと思われるじゃないか。

いや、そんなこと思ってる場合ではない。まさか本当に面倒事が来るとは思わなかった。

そう、その面倒事とは窓からヒョッコリ顔を出したこの人、佐々木夕。

スッ…と他人のフリをしながら前を向く小田の首根っこを引っ付かみこちらを向かせる。おい、とんでもなく嫌な顔してんじゃねぇよ。

「あれ、小田ちゃんもいるじゃん」

「どうも」


白目を剥きながらそう答える小田にもう逃げ場はない。

私たちの席は窓際なので、佐々木夕はベランダから顔を出していることになる。別に1階だからどうってことはないんだけど、さすがにビックリするわ。

ちなみに1階ということは、窓ガラスはバッキバキに割られているので吹きさらし状態。

わざわざ律儀に外側から鍵を開け、窓を開ける佐々木夕。
一体何の用なんだ、こんな授業中に。


「蓮から逃げててさー」


まだしてたのかその鬼ごっこ。