狂気のお姫様

「律、と小田。夕見なかったか」

「いや、見てないです」

移動教室中に長谷川蓮に遭遇したのだ。

なんなのもう。

羽賀愁はよく分からないが、陽ちゃんと四ツ谷鳴、佐々木夕の3人は面白がって私に話しかけてくるタイプだ。しかし長谷川蓮に至っては素なのだ。完全に素。そのため無下にできない。


「あいつ殺す」

前は全然害悪なさそうな感じだったのに、今の長谷川蓮からはどす黒いオーラが溢れ出していて正直害悪しか感じられない。

天って仲良いんじゃないの。殺すとか言っちゃってんだけどこの人。佐々木夕、一体何したの。ていうか長谷川蓮に話しかけられていることで注目浴びだしてるんだけど???

小田をチラリと見ると、一刻も早く去りたいという気持ちが顔面にハッキリ出ている。分かりやすい。

「なんか…あったんですか」

そう聞かざるを得ないだろうな。

「あいつ…俺の唐揚げ食べやがった」

「…」

「…」


小田と顔を見合わせる。


「…」

「…」

うん!しょうもないわ!!とっても!!!!!

そんなことで移動教室への道のりを阻まれてるのかという気持ちでいっぱいな私と小田。


「お前らも探せ」


なんでだよ。全然全くこれっぽっちも関係ないよ移動させろよ。


「唐揚げあげるぞ」


いらん。そもそもその唐揚げ食べられたから怒ってんだろ。自分で食えよ。


「長谷川さん…ほら、ねり梅あげますから…」


あ、小田が壊れた。


「梅は酸っぱいだろ」

「左様ですか」

ねり梅作戦失敗。小田撃沈。

かくなる上は…


「あ、今あっちの校舎の2階に佐々木さんっぽい人が」

「なに」


長谷川蓮はキッと向かいの校舎を睨むと、ダダダダダッと走って行ってしまった。


「やばい明日からねり梅女とか噂されたら病む」

「あんたねり梅大好きだからいいじゃん」


ひとまず長谷川蓮からは免れ、ホッと一息。


「まじで何言い出すかと思った」

「どんな思考回路してんのあの人」


周りに聞こえないようにボソボソと悪口を言いながら、阻まれていた移動教室を再開。


「東堂だけならまだしも私までいじめられたらどうすんだよ」

「おっと聞き捨てならない」

「一応、東堂からいじめられてて一緒にいるんですよアピールでもしとくか」

「あ、最低」


お前もどんな思考回路してんだよ。